『希望が死んだ夜に』のこと⑥担当さん達について

なにを書いても「ま、いいか。メフィスト賞作家だし」と思ってもらえそうだから、なんとしてもメフィスト賞でデビューしたかったミステリ作家・天祢涼です。念願叶ってメフィスト賞を受賞、これでどんなジャンルを書いてもOKな免罪符を手に入れたわけです(笑)。

とはいえ、文藝春秋の担当さんに最初にプロットを持っていったときは緊張しました。なにしろこの担当さんが依頼をくれたきっかけは『キョウカンカク』文庫版。デビュー時から「シリアスなものもやりたい」と思ってはいましたが、「自分が求めているのは『キョウカンカク』みたいなノリのものです」とボツにされるおそれは充分ありました。だから、一応、『キョウカンカク』的なノリのプロットも用意しておきました。

キョウカンカク
天祢涼のデビュー作。警視監からの極秘指令で動く銀髪少女・音宮美夜が主人公のミステリ。リアリティーはあまり考えず、マンガやゲーム的なノリで楽しく書いてます。年内に新作を刊行予定。

でも心配は杞憂でした。この担当さんは、本格ミステリ大賞受賞作も手がけた経験豊富な編集者。「作家は年齢とともに変わっていかなくてはなりませんから」と、シリアスなプロットをあっさり通してくれました。

感激した天祢涼は、なんとしてもこのシリアスな小説をものにするべく全力を尽くした……のですが、力を尽くしたところでだめなものはだめで、結局、プロット段階で頓挫。そう、最初に持っていったプロットは『希望が死んだ夜に』ではなかったのです。

その後、これとは別に書きたかったものを練り上げて誕生したのが『希望が死んだ夜に』でした。

第一稿を読んだ担当さんから大きなアドバイスを3つもらって、全体を改稿。どれも目から鱗の観点で、作品の質が大幅に上がったと自負しております。

なお、この担当さんは異動になり、途中から自分より若い編集者が担当になってくれました。最近まで『週刊文春』編集部にいたためか、警察や新聞記者について的確な指摘をしてくれて、リアリティーがアップ。こればかりは現場感覚がないとわからないことなので、大変助かりました。

一部の描写については小説のおもしろさ優先で、意図的にリアリティーを無視してますけどね(^_^;)

さらに校閲さんには細々としたミスを見つけていただき、局長さんからも最後の最後まで貴重な指摘を……と、今回もたくさんの方にご協力いただきました。一人で好きに書くのも楽しいのですが、いろいろな方のお力を借りられるのは商業作家の醍醐味。本当にありがたいことです。

『希望が死んだ夜に』は文藝春秋より好評発売中です。

神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生の冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたものの、「あんたたちにはわかんない」と動機は全く語らない。なぜ、美少女ののぞみは殺されたのか。二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がってくる。

「キョウカンカク」でメフィスト賞を受賞し、『葬式組曲』が本格ミステリ大賞候補や日本推理作家協会賞(短編部門)候補となった著者による、社会派青春ミステリ。 (文藝春秋のサイトより)

この記事が気に入ったらシェアお願いしますm(_ _)m
ABOUT US
天祢 涼
あまね りょう
第43回メフィスト賞を受賞してデビューしたミステリー作家です。代表作は次回作。読んだ人の胸を抉るようなミステリー、胸きゅんラブコメなミステリーを世に送るべく日夜模索中。このブログでは仕事情報のほか、MacやiPhoneのネタ、猫写真などをアップしております。