「風林火山異聞録」(『忍者大戦 黒ノ巻』収録)

カバー装画:宮川雄一
カバーデザイン:斉藤秀弥
発売日:2018年8月8日
定価:720円(税別)
出版社:光文社

 

戦国時代には数々の合戦の舞台裏で、徳川の治世にはその政の背後で、彼らは密かに戦い続けていた――。伊賀、甲賀、軒猿……時に密命を受け、時に自らの意思で死地へと飛びこんでゆく忍者たち。秘術を尽くした激烈な死闘に息を呑み、仁義なき騙しあいに手に汗握る。本格ミステリーの手練れたちが全編新作書下ろしで贈る、謎に彩られたスーパー忍者活劇全五編!(光文社の公式ページより)

「忍者が戦って、ちょっとミステリ風味な話」というお題で書かれた短編を集めたアンソロジーです。ありそうで見かけないテーマなのでおもしろく思い、参加させていただきました。

天祢涼が寄稿した小説のタイトルは「風林火山異聞録」。

時は戦国。第四次川中島合戦にて上杉政虎(後の謙信)に啄木鳥戦法を見破られ、窮地に陥る武田軍。軍師・山本勘助は形勢を逆転するべく、単身、政虎の首を狙う。不思議な術を使い、乱戦をくぐり抜けていく勘助。実は若き日の勘助は忍びだったのだ……というストーリーですが、うん、自分で書いておきながらトンデモな話ですね(^_^;)

最初は、デビュー作に出した銀髪探偵・音宮美夜を主人公にするつもりでした。パラレルワールドの美夜が、探偵ならぬ「くの一」として活動しているものの、敵に捕まり、あんなことやこんなことをされそうになるピンチを辛うじてくぐり抜けていく、『コミックヴァルキリー』にコミカライズを持ち込めそうな話を目指していたのです。

が、美夜がくの一になった背景や、敵忍者との関係を書くのに結構なページを割きそうで断念。悩んだ末に、「史実の合戦の裏で忍者が蠢いていたことにしよう。それなら時代背景や敵との関係を説明する箇所を短縮できる!」と閃き、大好きな戦国武将・武田信玄を出そうと思い、歴史好きの間では知名度が高い第四次川中島合戦を舞台にすることに決めました。

主人公は山本勘助に決定。実在すら疑われている人物なので、「信玄に仕える前は忍びだった」という設定もOKのはず……と、ここまではとんとん拍子だったのですが、新たな問題が。

第四次川中島合戦についてはほとんど史料が残っておらず、学者さんによって見解が異なります。川中島合戦に関する本を5、6冊ざっくり読んだだけでも。

「『甲陽軍鑑』にしか書いてない合戦があるはずないでしょ」
「合戦はあったけど、ほんの小競り合い。その後の武田軍がぴんぴんしてるから、あんまり死人は出てないはず」
「霧が立ちこめてたから偶発的にぶつかって戦いになった。そんな理由で犠牲者が大量に出たなんてみっともないから、お互い記録に残さなかった。本当はあったんだよ、第四次川中島合戦」
「戦いはあったと思うけど、啄木鳥戦法はありえない。霧に紛れて山を登る? どうやって登るの? 遭難するよ、武田軍?」

などなど、予想以上に見解が分かれていて、素人の自分は大混乱。おおまかな構想はできたものの、段々書ける気がしなくなっておりました。

そんなとき、小田急ブックメイツ新百合ヶ丘店さんのイベントでお会いしたのが、誉田龍一さん

時代作家さんとじっくりお話しするのは初めてだったので、イベント後の打ち上げで厚かましくも自分の陥っている状況を相談。すると誉田さんは、笑顔で一言。

「学説なんて時代によって変わるし、小説なんだから好きに書いていいんだよ」

目から鱗でした。ミステリだろうと時代物だろうと、読者は「小説」を読みたいだけ。学説を遵守しようとしてつまらない小説になっては意味がない……当たり前なのに見落としていたことに気づかされました。

それからは開き直って、一気に執筆。開き直りすぎてやりすぎなところもあるかもですが、書いていて楽しかったなあ。天祢涼のブレーキを壊した……じゃない、はずしてくれた誉田龍一さんには感謝です。さすが「兄貴」!

読んでくれた人の評判もいいようです。お楽しみいただければ幸いm(_ _)m

ちなみに、天祢涼が一番最初に書いた小説は、小学四年生のときに放送していた大河ドラマ『武田信玄』の小説です。ノートに手書きで、勝手にノベライズしていました。途中で飽きて放置し長らく未完で終わっていましたが、「風林火山異聞録」を書いたことで30年越しで完結させた気分です……ちょっと違うけど(笑)。