『謎解き広報課』裏話その4(全4回)

第1回第2回第3回から続き)

企画が通るなり、Aさんを始め、やり取りをしていた自治体広報マンに連絡。「天祢涼」名義で小説を書いていることと、自治体広報紙を舞台にしたミステリを書きたいので、取材させていただきたい旨を伝えた。

それから山梨、宮崎、広島、岩手、静岡と、方々に取材に出かけた。たまたま東京に研修に来ていた新潟の広報マンに時間をもらって、立川で会ったこともあった。

ほとんどの広報マンが既に異動になり、広報紙OBになっていたが、街への愛情は少しも変わらず、担当時のことを熱っぽく語ってくれた。彼らの話からアイデアをもらったのはもちろん、ある広報マンの話……というより「存在そのもの」が衝撃すぎて、主人公の上司の設定を大きく変えたりもした。

偶然ではあるが、取材させていただいた広報マンは全員男性。男性主人公では、無意識のうちに彼らをモデルにしてしまう。そこで、主人公は思い切って新卒女子(しかも彼らと違ってやる気なし)とすることにした。

なお、これらの取材はすべて自費である。組織だったら上司の許可を得るのに一苦労するほどの旅費を使っているが、小説家は個人事業主。「おもしろい小説を書くために必要」と判断すれば、(自分の懐が許すかぎり)誰に遠慮することなく予算を使うことができる。この辺りは一匹狼の気楽なところだ……その分、苦労も多いが(苦笑)。

1年以上に及ぶ取材の末、本格的に書き始めたのは2014年7月。途中、ほかの仕事で何度か中断を挟みつつも書き続け、2015年5月、ようやく自治体広報紙ミステリ『謎解き広報課』を刊行することができた。Aさんとの出合いから9年。ここまで本当に長かった。協力してくださった広報マンの皆様には、心からお礼を申し上げたい。おかげさまで、これまでの天祢涼作品にはなかった小説に仕上がったと思う。

ただ、ミステリとして伏線を張らなければならなかったり、自治体広報紙の説明や主人公の悩みなどに筆を割いたりした結果、全国の自治体広報マンの情熱・おもしろさを充分には書けなかったのでは……という思いもある。

現在、二作目以降のアイデアや構想を抱いてはいる。スケジュール的にもいますぐは難しいが、「いずれは続編を書かせてもらえたらよいなあ」という思いを抱きつつ、『謎解き広報課』に関しては一旦筆をおく。

天祢 涼(あまね りょう)
天祢涼